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地域と一緒に成長する自治体ポータル。まちポの「オープンプラットフォーム」戦略

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従来の自治体システムの多くは、特定ベンダーに依存した構造により、仕様変更に多大なコストと時間を要する課題を抱えています。一方で、地域のニーズは刻々と変化し、システムには高い柔軟性と拡張性が求められています。

こうした課題に対し、「まちポ」では「オープンプラットフォーム」という技術思想を採用。業界標準の技術を組み合わせることで、ベンダーロックインを回避し、継続的な改善・拡張を可能にする設計を実現しています。

まちポの技術設計を担当する株式会社パルケの黄倉充CTOに、オープンプラットフォームが解決する自治体の抱える課題について聞きました。

■黄倉 充(おうくら みつる)プロフィール

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株式会社パルケ CTO。株式会社JCBでクレジットカード業務を経験後、アクセンチュア、アビームコンサルティングで主に製造業の基幹システム構築に従事。現在は株式会社パルケでWebアプリケーションシステム開発を担当。まちポでは、PMOとしてプロジェクト全体推進、テクニカルリーダーとして技術選定や開発メンバーのトレーニング、開発リードとしてシステム開発進捗管理を担う。

「数百万円かかる仕様変更」を数週間で実現するオープンプラットフォーム

──まちポで採用している「オープンプラットフォーム」とは、どのような技術なのでしょうか?

世の中一般的に受け入れられているオープンソース技術と、定評のあるクラウドサービスを組み合わせてアプリケーションを構築する手法です。

重要なのは、どこでも使われている標準的な技術を使うことと、特定のベンダーに依存しない設計にすることです。これにより、「このベンダーでないと対応できない」「技術者が見つからない」といった問題を避けることができます。

まちポでは、現在Webアプリ開発で定評のあるVercel社のNext.jsを採用し、データベースにはオープンソースのMySQL、ソースコード管理にはGitHubを使用しています。また、早期からAIコードエディタのCursorを全メンバーに適用して、効率的な開発を推進してきました。

──なぜ、まちポでは「オープンプラットフォーム」を採用することにしたのでしょうか?

自治体システムが抱える構造的な課題を解決するためです。従来の自治体システムは特定ベンダーの独自技術に依存しており、システム変更や機能追加に多大な時間とコストがかかっていました。

また、ベンダーが撤退したり、技術者が不足したりすると、システムの維持・発展が困難になるリスクもあったと思います。

そこでオープンプラットフォームを採用することで、これらの課題を根本的に解決できる点に注目しました。標準的な技術を使用することで引き継ぎが容易になり、複数のベンダーから選択できるため競争原理も働きます。

そして何より、地域のニーズ変化に迅速に対応できる柔軟性を確保できるようになることが最大の利点だと考えています。

──従来の自治体システムと比べて、職員の皆さんにとってどのような違いがあるのでしょうか?

最も大きな違いは、システム変更にかかる時間とコストです。従来システムでは仕様変更に数百万円の費用期間が必要でしたが、まちポでは数週間での実装が可能です。

たとえば、コロナ禍で急遽「ワクチン接種予約」機能が必要になったような場合や、災害時に「避難所情報配信」機能を追加したい場合でも、迅速に対応できます。これは地域の現場で実際に起こる「急な変化」に対応できる大きなアドバンテージです。

また、どの端末からでも容易に管理画面にアクセスでき、最新のフレームワークにより高いパフォーマンスとクイックなレスポンスを実現しています。

アクセス急増でもサーバーダウンしない安心設計

──自治体システムでは、給付金申請の開始時や災害時にアクセスが集中してサーバーダウンする事例が度々発生していますが、こうした課題にはどのように対応できるのでしょうか?

まさにその課題を解決するのが、サーバーレス技術による、アクセス数に応じて自動拡張する機能です。従来のシステムでは、予想を上回るアクセスが集中すると処理能力の限界を超えてしまい、システムダウンや極端な処理遅延が発生していました。

まちポでは、サーバーレス技術により、アクセス数に応じて自動的に処理能力が拡張される仕組みを採用しています。これにより、災害時の情報確認や給付金申請の開始時など、アクセスが集中する場面でも安定して稼働します。

さらに、クラウドとサーバレス技術の特性を活かすことで、従来のオンプレミス環境と比べて低い運用コストと高い可用性を実現。システム全体の信頼性も確保されています。

──セキュリティ面での配慮について教えてください。自治体では個人情報漏洩やランサムウェア攻撃の事例も発生しており、職員の皆さんはセキュリティに非常に敏感になっていますが、どのような対策を講じていますか?

おっしゃる通り、近年自治体を狙ったサイバー攻撃が増加しており、セキュリティは最重要課題です。まちポでは、認証・認可について独自の開発をせず、定評のあるライブラリの標準的な利用方法を遵守しています。これは「独自開発はリスクが高い」という考えに基づいています。

運用面では、本番環境や本番データへのアクセスを厳格に制限し、ライブラリを定期的に最新版へアップデートすることで、既知の脆弱性への対策を継続的に実施しています。

システムの安定性やセキュリティを高く保つために、一度開発して終わりではなく、継続してシステムの改善・アップデートを続けていくことを重視しています。

外部サービス連携で広がる住民サービスの可能性

──オープンプラットフォームであることで、住民の皆さんにとってどのような利便性向上が期待できるのでしょうか?

住民の皆さんにとって最も大きなメリットは、「一つのアカウントで様々なサービスを利用できる」ことです。現在は、図書館の利用、公共施設の予約、行政手続き、地域のお店での買い物など、それぞれ別々のIDやパスワードが必要で、住民の皆さんには負担をかけています。

まちポではAPIを公開しているため、外部サービスとの連携が容易になります。たとえば、地域の図書館システムや公共施設予約システム、地域事業者のECサイトなどと連携することで、まちポのアカウント一つですべてのサービスにアクセスできるようになります。

また、まちポの独自ペイ機能により、行政サービスの利用で貯めたポイントを地域のお店で使ったり、逆に地域での買い物で貯めたポイントを公共施設利用料に充てたりすることも可能になります。これにより、住民の皆さんの日常生活がより便利になり、同時に地域経済の活性化にもつながります。

──現在多くの自治体で複数の個別システムが並存していますが、段階的な統合は可能でしょうか?

オープンプラットフォームの特性を活かし、標準的なAPI連携によって既存システムとの連携を実現可能です。全面的な刷新ではなく、住民の皆さんの利便性向上効果が高い部分から段階的に統合していくことができるため、職員の皆さんの負担も軽減できます。

たとえば、まず図書館システムとの連携から始めて、次に公共施設予約システム、その後に地域事業者との連携といった具合に、段階的に拡張していけます。ただし、既存システムの技術仕様や連携可能性を事前に詳しく調査する必要があります。

「リリースして終わり」ではない。住民からの要望を吸い上げ、継続的改善で進化しつづけるシステムへ

──自治体がこのようなシステムを活用するために、特別な技術力や体制が必要になるのでしょうか?

特別な技術力は必要ありません。むしろ、従来のシステムよりもシンプルで取り入れやすい設計になっています。

技術面では、汎用的で広範囲に利用されている技術を使用しているため、システム開発・運用の引き継ぎが容易です。

特定の技術者に依存することなく、標準的なスキルを持った技術者であれば対応可能な設計を実現しました。

サービスを継続して改善していくためにも、住民の皆さんからの要望や、職員の皆さんが日常業務で感じた改善点を、気軽に相談していただけるような関係性を築くことが大切です。

オープンプラットフォームの真価は、こうした小さな改善の積み重ねによって発揮されます。「もう少しこうだったら使いやすいのに」という声を、実際に形にしていける柔軟性こそが最大のメリットなのです。

──最後に、まちポを通じた技術の力で実現したい地域の未来について教えてください。

私たちが目指しているのは、技術が住民の皆さんの生活を豊かにし、地域全体が活性化する未来です。まちポの独自ペイを中心に、自治体の各アプリが連携し、自治体ポータルとして地域に浸透していくことで、「地域で頑張る人が報われる仕組み」を技術的に支えたいと考えています。

そして、私たちの開発で大切にしているのは、住民の皆さんが使いやすく、職員の皆さんの業務が楽になり、地域経済も活性化する、そんな「三方良し」を技術で実現すること

技術は手段であって目的ではありません。大切なのは、その技術によって地域の人々がどれだけ幸せになれるかです。

今後もまちポはどんどん使いやすく、外部連携も増やし充実していく予定ですが、常に「地域の皆さんのために」という想いを大切に開発を続けていきます。技術者として、地域の課題解決に真摯に取り組んでいく。それが私たちの姿勢です。