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申請主義の限界を超える自治体ポータル「まちポ」誕生への想い

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みらい株式会社 代表取締役 妹尾 暁氏に聞く

人口減少、職員数減少、そして高齢化による行政ニーズの増大など、限られた人員で多様化する住民サービスに対応しなければならない現実に、多くの自治体が苦慮しています。

さらに、既存の行政デジタル化は「申請主義」の壁に阻まれ、本当に支援が必要な人に制度が届かない構造的な問題を抱えています。

この状況を打破すべく開発されたのが、行政手続きと地域ポイント・地域通貨を統合した「まちポ」。住民の行政サービス利用や地域活動への参加でポイントが貯まり、地域内での買い物に使える仕組みで、自治体・住民・地域事業者をつなぐオールインワンの自治体ポータルです。

まちポによってどのように行政課題が解決され、どのように地域が変化していくのか。開発・提供元であるみらい株式会社の妹尾暁代表取締役に、現場で培った課題意識と「制度から取り残されない社会」実現への決意を聞きました。

■妹尾 暁(せのお あきら)プロフィール

みらい株式会社 代表取締役Founder & CEO。島根県出身。会社設立前は大手コンサルティング会社に所属し、主に地方創生・地域活性化をテーマに、府省・自治体を顧客にしたICTコンサルティングに従事。サラリーマン時代は東京を拠点としていたが、地方の問題を解決するには、自ら地方に身を投じる必要があると考え、一念発起して広島へ。2016年11月に「みらい株式会社」を広島市に設立。「未来をつくるしごとをしよう」をスローガンに掲げる同社では、行政機関や企業とパートナーシップを築きながら、抜本的な課題解決に向けて、戦略・企画づくりから、実現するための仕組みづくりに至るまでをトータルでサポートしている。

地域現場で痛感した「制度を知らない住民」に支援が届かない現実

──現在の自治体が抱えるデジタル化の課題をどのように捉えていらっしゃいますか?

大手コンサルティング会社で府省や自治体のICTコンサルティングに従事し、その後広島でみらい株式会社を設立してからも、全国の自治体や地域現場に関わってきた経験のなかで、地方には「課題が顕在化しにくい」「支援が届きにくい」という構造的な壁があることを痛感してきました。

特に行政サービスは「申請主義」によって支援の可視性とアクセシビリティが限定されており、情報を得られる人・申請できる人しか恩恵を受けられない仕組みになっています。

モバイル社会研究所の調査では、自治体アプリへの利用意向は69%、特に70代では82%と高い一方で、実際の利用率は大きく下回っているのが現状です。

この「期待と現実のギャップ」こそが、現在の自治体DXが抱える本質的な課題だと考えています。

──妹尾さん自身が現場で感じた経験が開発のきっかけになったのですね。具体的にはどのような体験だったのでしょうか?

ある自治体で高齢者支援制度の設計に関わった際のことです。素晴らしい支援制度ができたのにも関わらず、実際に利用するのは情報収集能力の高い一部の住民だけ。本当に支援が必要な人ほど、その制度の存在すら言わない状況でした。

さらに深刻なのは、「わかる人だけが得をする構造」が申請代行ビジネスなどの営利活動を生み出し、本来無料であるべき行政サービスに格差を生んでしまっていることです。

こうした状況を変えるには、「誰もが自然と関われるインターフェース」の実装が不可欠だと確信し、まちポの構想に至りました。

地域通貨で住民の継続利用を促進する新発想

──なぜ行政ポータルに地域通貨・ポイント機能を統合するという発想に至ったのでしょうか?

従来の行政アプリが抱える最大の課題は「利用促進の仕組み不足」です。アプリを導入しても、住民が継続的に使う理由がない。

そこで、行動に対するインセンティブとして、誰でも直感的に理解できる「ポイント」という軽量な通貨モデルに着目しました。

これにより、行政手続きの利用や地域活動への参加が自然と地域経済の循環につながる仕組みを実現したいと考えています。

住民にとっては「お得感」、行政にとっては「政策誘導ツール」、地域事業者にとっては「集客支援」という、三方良しの関係を目指しています。

──具体的にはどのような行動がポイント対象になるのでしょうか?

健康診断の受診、地域清掃への参加、高齢者の見守り、子育て支援、防災訓練への参加など、従来は「ボランティア」として埋もれていた行動をポイントで評価・記録する仕組みを構想しています。

貯まったポイントは地域の商店での買い物や公共施設の利用に使えるため、地域内での経済循環を生み出したいと考えています。

さらに重要なのは、住民の行動履歴が蓄積されることで、行政が「申請を待つ」のではなく「能動的に支援を提案する」ことを可能にした点。

将来的には、この行動記録が信用スコアとして機能し、より個別最適化された行政サービスの提供につなげていきたいと考えています。これは私たちが本気で実現したい社会の姿です。

地域と一緒に成長しつづける自治体ポータルへ

──すでにさまざまな自治体向けデジタルサービスや地域通貨がありますが、「まちポ」の独自性はどこにあるのでしょうか?

大きく2つの違いがあります。

一つ目は、「導入して終わり」ではなく「地域と一緒に成長し続ける」ことを前提に設計している点です。既存の自治体ポータルの多くは、導入時に機能が固定され、数年間変更できない仕様になっています。しかし地域の課題やニーズはつねに変化するため、固定的なシステムでは対応しきれません。

まちポは「オープンプラットフォーム」として設計しており、地域ごとの課題・文化・制度に応じて機能を柔軟に調整できるようにしたいと考えています。

たとえば、ある自治体では高齢者見守りに重点を置き、別の自治体では子育て支援や移住促進に特化するといった、地域の実情に合わせたカスタマイズを実現していきたいのです。

二つ目は、従来の地域通貨が「経済活性化」、地域ポイントが「住民サービス向上」と単一の目的で設計されることが多いのに対し、まちポは行政サービスと地域経済を統合的に捉えて設計していることです。

住民が行政サービスを利用することで地域経済が活性化し、地域経済への参加が行政サービスの利用促進につながる循環構造を目指しています。

これにより、「行政の負担軽減」「住民満足度向上」「地域経済活性化」を同時に実現したいと考えています。

──従来の自治体システムは変更に時間とコストがかかると聞きますが、まちポではどう違うのでしょうか?

多くの自治体システムは、仕様変更に数百万円の費用と半年以上の期間が必要になります。しかしまちポでは、地域のニーズに応じてミニアプリの追加や機能調整を迅速に行えるような設計を目指しています。

たとえば、コロナ禍で急遽「ワクチン接種予約」機能が必要になったような場合や、災害時に「避難所情報配信」機能を追加したい場合でも、従来のシステムでは対応に数ヶ月かかりますが、まちポでは数週間での実装を可能にしたいと考えています。

これが地域の現場で実際に起こる「急な変化」に対応できる大きなアドバンテージになりうると考えていますね。

職員負担を軽減しながら段階的に効果を実感する導入戦略

──地方自治体では人口減少とともに職員数も減少し、一方で高齢化により行政ニーズは増加している状況です。そうした限られた人員・予算の中で、どのように導入・運用していけばいいでしょうか?

まさにその点が、まちポ設計の核心部分です。私たちは「小さく始めて大きく育てる」3ステップアプローチを提案したいと考えています。

STEP1では、まず行政ポータルと基本的な地域ポイント機能から開始。職員の皆さんに新たな業務負担をかけることなく、住民の利便性向上から実感していただきたいと思っています。

STEP2で地域の事業者や団体と連携してサービスを拡充し、STEP3で地域外からの収益獲得や移住促進につなげる流れを描いています。

重要なのは、各ステップで確実に「職員の業務軽減」と「住民満足度向上」を実現し、次のステップへの投資根拠を明確にできることだと考えています。

──具体的にはどのような業務軽減を実現していきたいとお考えですか?

最も効果を期待しているのは「問い合わせ対応の削減」です。制度の詳細や手続き方法、必要書類などの基本的な質問を大幅に減らしたいと考えています。

また、各種申請の進捗状況を住民自身が確認できる仕組みにより、「申請はどうなっていますか?」という電話も激減させることを目指しています。

さらに、イベントや施策への参加募集についても、従来の広報誌やWebサイトでの告知に加えて、ポイント付与による参加インセンティブで、参加者集めの労力を大幅に軽減したいと考えています。

他地域の事例を見ると、ポイント制度のある施策は参加率が2〜3倍に向上するケースが多いため、まちポでもそうした効果を実現したいのです。

──そうした業務軽減や導入支援について、他の自治体向けサービスを提供する会社との違いはどこにあるのでしょうか?

一つは「地域現場での実践経験」です。私たちは単なるシステム会社ではなく、実際に地域の課題解決に取り組んできた実践集団です。そのため、「机上の理論」ではなく「現場で本当に使える仕組み」を提供したいと考えています。

もう一つは「伴走支援」の姿勢です。システムを納品して終わりではなく、導入後も地域の成長に合わせてサービスを進化させつづけます。これは、地域づくりへの長期的なコミットメントがあるからこそ可能なアプローチだと自負しています。

住民の小さな行動が報われる地域社会を実現したい

──2025年度からの本格展開に向けて、どのような自治体・地域との連携を想定していらっしゃいますか?

すでに複数の自治体から導入の相談をいただいており、段階的に展開していきたいと考えており、その知見を活かした広域連携モデルの検証も進めていく予定です。

特に重要視したいのは、「本気で住民のことを考えている」首長や職員の皆さんがいる自治体です。

技術や仕組みは私たちが提供できますが、最終的に地域を変えるのは「人の想い」。そうした想いを持つ方々と一緒に、制度から取り残されない社会を実現していきたいと強く思っています。

──最後に、読者の皆さんへのメッセージと、「まちポ」にかける想いをお聞かせください。

日々、限られた人員と予算の中で住民のために奔走されている皆さんの「もっと住民に寄り添いたいのに、制度の壁がある」といったもどかしさを、私たちは技術の力で解決したいのです。

「人の行動が、地域を変える。」これが私の信念です。地域で誰かのために行動する人がきちんと評価され、報われる循環型の社会を、必ず実現したい。

まちポはまだスタートしたばかりですが、単なるツールではなく、皆さんの想いを実現するためのパートナーとして、私たち自身が現場の課題と向き合い続ける覚悟を持っています。

この想いに共感いただける方、一緒に地域の未来を創っていただける仲間からのご連絡を、心からお待ちしています。


■みらい株式会社について
広島県広島市に本社を置き、「地域とのパートナーシップで、もっと楽しく、もっと豊かな未来を。」をビジョンに掲げ、人材育成事業、コンサルティング事業など多様な事業を展開。2016年の創業以来、地域社会の発展に貢献する事業を推進している。